今日は、感情の盗み方について書きます。
みなさんは、感情を盗む、という言葉を聞いてどのような言葉を想像するでしょうか?
「え? 感情って盗めるの?」とかそんな感じなのでしょうか。こういうことを色々と想像するのも面白くて楽しいですね。
さて、感情を盗むというのは、本当に、文字通りの意味なのです。
分かりやすい言葉で言い換えれば、人の心を射止める、というふうにも言えるかもしれません。
すると、恋の話なのか? ということになってきます。たしかに、感情を盗むということは、恋に非常に密接な関係があると言えると思います。何せ、その人の心を盗もうというわけですからね。そうなります。
分かりやすくしましょう。感情をお金に喩えてみるのです。つまり、感情を量にして表してみる。一円の感情、二円の感情、五十円の感情……と言ったふうに。感情には強さがありますね。強い深い感情ほど高価です。それは、百万円の感情かもしれませんし、一億円の感情かもしれません。このように仮に、量として表現すれば、一億円の感情というものがものすごく強い価値ある感情だというのはなんとなく体感として伝わるのではないでしょうか。
そして、感情を盗むというのはいわば、この一億円の感情を盗むことを意味しています。
しかし、感情を盗むなんて、ふつうの言葉の使いかたではありませんよね。感情は普通盗む対象としては扱われないのです。ですが、それは往々にして盗まれるものなのです。
例えば、作家は、美しい文体によって、多くの読者たちを魅了します。これは、読者たちの心を射止めているわけですね。つまり、読者達のこころは作家の物語にくぎ付けなわけです。この状態を、感情が盗まれた状態、と表現しています。
では、なぜ、感情を盗むということを、ことさらにピックアップして論じるのか。
それは、僕たち、魔術師は、積極的に感情を盗むのが仕事であるからです。
盗みが仕事だなんて、普通では考えられないかもしれませんが、こと感情に関して言えば、盗むのが仕事なのです。
以前に、『経済術』という記事を書いた際に、「精神資本」という言葉をつかいました。これは、精神のさまざまな性質や能力を資本、つまり、お金として量に喩えて表したものです。そうすると、色々なことがイメージしやすくなるのは、前記したとおりです。
そして、感情を盗むということは、この精神資本を盗むということでもあります。
さらに、精神資本は、僕が思うに、もっともかけがえのないものです。この世に意欲にあふれる人間ほど貴重なものはそうそうないのではないでしょうか。そう思えてしまうくらいに、精神が豊かな人というのは、価値あるものです。
ここで、注意すべきは、「財宝は隠されている」、ということです。つまり、豊かな精神も、幾重にも及ぶ暗号とセキュリティウォールに阻まれて存在しており、一見したところでは、そこに財宝が眠っているとは分かりません。精神の豊穣というその財宝を見いだすためには、すべての暗号を解き明かし、丈夫な扉をこじ開け、精神の金庫の中に人知れず侵入し、侵入者の侵入を知らせるサイレンが鳴り響く前に、そこから脱出しなければなりません。それも、その精神の財宝を抱えたままです。この逃走劇は、そうそう簡単に成し遂げられるものではありません。ゆえに、感情泥棒とは、極めて難しい仕事の一つなのです。
なぜ、精神の豊穣を金庫やセキュリティウォールから盗み出す必要があるのか。それは、狭い環境に押し込められた精神は、不当に街や国のシステムによる抑圧を受けるためです。そういった、狭苦しい街から、その精神の豊穣、つまり、その人の魂を連れだすことは、生き生きとした魂を作り出すために必要なことなのです。むしろ、その魂なり心を、狭い街から連れ出し、逃走するということ、それ自体が、精神の豊穣へと向けた一つのセキュリティ解除の手続となっています。
そして、精神の豊穣は極めて価値の高いものです。精神の豊かな人は、周りの人にも豊かな作用を及ぼします。しかし、そのためには、狭いお屋敷なり金庫の中というよりも、広々とした自由な環境が必要なのです。そこにおいてこそ、命は花開きます。
つまり、僕たち魔術師は、命を創るために感情を盗むのです。
では、どのようにして、感情を盗むのか。
これは、一人一人の「怪盗」の手にゆだねられます。なぜなら、豊饒な感情を守るセキュリティウォールは、常にアップデートを繰り返し、その暗号を解読されないように変質させ続け、新たなセキュリティ手法を開発しているからです。それに対し、一人一人がそれぞれ怪盗であるとも言える、僕たち魔術師は、感情的ハッキングを絶え間なく講じることによって対抗します。つまり、技術のいたちごっこです。魔術とセキュリティは、こうして拮抗します。何も、セキュリティを滅ぼす必要もありません。僕たち魔術師の仕事は、敵の撃滅ではないし、敵をつくることでもない。そうではなく、命を創ることです。セキュリティなどいくらでも更新させておけばいい。僕たち魔術師は、そのたびに、ハッキング手法を改良し、命を創り続ければいいだけのことです。
要は、創造性による技術の発展速度を競う、セキュリティ側と魔術師との間のひとつの「競争」となります。そして、強固な同質化のシステムは、常に、僕たち魔術師の心を狙っているのであり、したがって、ひとつの感情的狙撃には注意しておかねばなりません。魔術師と言えど、心を打ちぬかれたら、深く傷付きます。行動不能になってしまうかもしれません。しかし、傷ついた時、助けてくれる人がどこかにいるかもしれません。助けられたら、ある意味で、あなたの感情はその誰かに盗まれてしまうかもしれません。でも、そんなに悪い気持はしないはずです。あなたの心はその誰かに釘付けなのですから。それは一つの恋と呼び得るかもしれません。感情を盗むとはそういうことなのです。そして、その感情は、一億円どころか、数億、或は十数億、もっともっとかも知れませんが、それくらいの価値が感じられるのではないでしょうか。たとえ、一時の感情だとしても、そのように感じたあなたの感覚はなんら間違いではなく、極めて貴い物であり、何にも代えがたいものであり、生物学的に言うなら、生殖への欲望というふうに言うこともできるでしょう。この場合で言えば、文字通り、命を創るわけですね(笑) すいません、下世話で(笑) でも、けっこう大事な話なんですよ? 本当ですよ?
代表的な感情的ハッキング手法を上げて置きます。詳しくは、そのうち気が向いた時に一緒に考えてみましょう。
1.小説
2.音楽
3.絵画
4.彫刻
5.弁論
6.カウンセリング
7.起業
8.自由な論説文(いわゆる学術論文ではない)
9.エッセイ
10.ブログ
11.ナンパ
12.自由性の高いパーティー
13.自由性の高い言論の場
14.逆ナン
15.会話全般
16.しぐさ
17.ファッション
18.説法
19.自由な態度
20.直観にもとづく行動全般(簡単に言うと、極力、できるだけ、好きなことを自由にやるということ。またそういった態度、様子そのもの)
とりあえず、二十個ほどあげておきましたので、感情泥棒について考える材料にしてくださいませ。
感情はどこに隠れているか分かりませんよ。引きこもりの少年の中、フリーターの少女の中、ブラック企業で働く正社員の中、いじめられている小学生の中、一人の令嬢の心の中……どんなところにだって、あるかもしれません。そういった、隠された感情を盗み、揺さぶり起こすことが、感情泥棒の仕事です。人は知らず知らずのうちに助け合っているものですね。僕たちは、知らず知らずのうちにさまざまな人に助けられて生きているものと思います。そうしたら、恩返しするのも、別に不思議なことじゃないですよね。さまざまな人に助けられたのならば、さまざまな人を助ければよい、という単純な互恵的利他主義の構造ですが、まあ、それほど悪いものではないかと思いますので、今日はこの辺にしておきましょう。自分を助けてくれた人たちが、笑顔を見せてくれたら、なおよいとは思いませんか?
嫌われることを恐れるより
信じた愛を伝えたい
はじめて君が見せてくれた笑顔
守り抜くよ(40mp,『感情泥棒』,歌詞より引用)