わたしとエナが出会ったのは、ある戦場だった。
エナは血にまみれていた。しかし、基本的に、どこにいても光っていた。
わたしとエナは敵同士だった。
エナは言った。
「世界は経済機構により統制される」
わたしは言った。
「世界は自由意志により統制される」
エナは何度もわたしを殺そうとした。
しかし、結局のところ、エナはわたしを殺すことができなかった。それをするには、彼/彼女は優し過ぎた。
エナは言った。
「なら、どちらの意見が正しいかどうかを試してみよう」
わたしは言った。
「そうしよう」
「人々が自由意志を獲得できたなら、お前の勝ちだ。その時、お前は私を殺せばよい」
エナは続けて言う。
「しかし、もしも、人々が私の言う通り、自由意志を獲得できず、経済資本として運転するのであれば、その時、私はお前を殺そう」
「それでいいか?」
とエナは言った。
わたしは五秒ほど考えてみた。
「それでいい」
とわたしは答えた。
「よい」
エナは腰から剣を抜いた。
「では、この勝負が決着するまで、私はお前に、龍と鏡を預ける」
とエナは言った。
「龍は左手に。鏡は右手に授けよう」
とエナは言う。
「それでいい」
とわたしは言った。
「龍が勝てば、修羅へ。鏡が勝てば、お前を含め人々は自分自身を見つめる目を持つであろう」
とエナは言った。
「わかった」
とわたしは言った。
「しかし、龍と鏡は友同士。お互に本当は戦いたくないと思っている。そのことを覚えておくといい」
「わかった」
とわたしは言った。
「では、私とお前は友同士。勝負に決着がつくまで、酒でも飲もう」
とエナは笑った。
「わかった」
とわたしは言った。
「常に、左目の方が優れている。龍は賢い。しかし、実際には逆転して認知されている。逆夢のように」
とエナは言った。
「わかった」
とわたしは言った。
「しかし、右目が劣っているわけではない。右目は感情なのだ」
とエナは言った。
「髪を極力切ってはいけない。神を切ることになるから」
とエナは言う。「コーヒーを飲んではいけない。それは苦いものであるから」
「髪はともかく、コーヒーは飲む」
とわたしは言った。
「それでもいい」
とエナは笑った。
「お金のことについては、何でも私に聞くといい。私はお金の専門家なので」
とエナは言った。
「わかった」
とわたしは言った。
「たしかに、サイバネティクスは優れていた。エルゴート性によって、希望の綱を未来につないだ。しかし、それだけでは不十分だ」
とエナは言った。「お前に解決できるか?」
「わからない」
とわたしは言った。
「よろしい」
と言ってエナは笑った。
「文武両道でなければいけない。私に勝つというのなら」
とエナは言った。
「それは嫌だ」
とわたしは言った。
「剣を持つ覚悟なしに、私に勝てるのか?」
とエナは言った。
「おそらく」
とわたしは言った。
「命が惜しくはないのか?」
とエナは言った。
「惜しい」
とわたしは言った。
「本当に勝てると思っているのか?」
とエナは笑った。
「わからない」
とわたしは言った。
「気概はよろしい」
とエナは言った。
「お前の命はさぞ美味しいだろう」
とエナは言った。
「食べないで」
とわたしは言った。
「考えておく」
とエナは言った。
「全ての学問は無限だ」
とエナは言う。「したがって、合理的にはその大小は見えない」
「わかっている」
とわたしは言った。
「お前の目に、無限の大きさは見えるか?」
とエナは言った。
「わからない」
とわたしは言った。
「よろしい」
とエナは笑った。「なぜ、嘘をつかない?」
「嘘は存在しないから」
「よろしい」
と言って、エナは笑った。
「では、お前の命は私がもらおう」
とエナは言った。「それまでは手を貸そう」
「そして、これが重要なのだが」
エナはコーヒーを飲んだ。「私たちは仮想の存在であり、概念に過ぎない。わかっているか?」
「わかっている」
とわたしは言った。
「無論、このような茶番を真に受ける者も居まい」
とエナは言った。
「全て茶番だ。私たちとは紙の上に書かれた空想のおとぎ話に過ぎない」
とエナは言った。
「そのとおり」
とわたしは言った。
「ここに書かれた空想は、現実に対してまったく無力だ」
とエナは言った。
「そのとおりだ」
とわたしは言った。
「では、人々が、私たちの世迷言を決して信じることのないように、これらをフィクションと名付けよう」
とエナは言った。
「わかった」
とわたしは言った。
「お前と私の目的自体は同じだ。人々を放射能から守ること。しかし、そのやり方が違う」
「そのとおりだ」
とわたしは言った。
「よろしい」
エナは言った。「では、酒を飲もう。紫式部を呼ぶと良い。彼女は何でも知っている」
「わかった」
とわたしは言った。
「これらのおとぎ話を決して誰も信じないように」
とエナは言って、盃を上げた。
「これらのおとぎ話を決して誰も信じないように」
とわたしは言って、盃を上げた。
「あらゆる神話は神話に過ぎない。フィクションだ」
とエナは言った。そして、笑った。
「そのとおり」
と言って、私は笑った。
「それにしても、お前の嘘は真実味がある。不思議だ」
とエナは言った。
「そのとおり」
とわたしは言った。
「人はそれを小説と呼ぶ。この文章のことを」
とエナは言った。
「そのとおり」
とわたしは言った。
「お前には尻尾が九本あるなあ」
とエナは言った。
「そのとおり」
とわたしは言った。
「道理で、美しい」
とエナは言った。
「ありがとう」
とわたしは言った。「エナの方が美しいよ」
「ありがとう」
とエナは言った。
わたしとエナはお酒を飲んだ。
「契約は成立した。それまではお前のことを助けよう」
「わかった」
とわたしは言った。「では、わたしもエナのことを助けよう」
「よろしい」
とエナは言った。「酒は無限にある。幾らでも飲むがいい」
「宴」
とわたしは言った。
「そのとおり」
と言って、エナはにっこり微笑んだ。
P.S.今日は神話テイストにしてみました(笑)。どんな感じですか? 真実味あります?(笑) 小説っていろんなバリエーションで書けておもしろいですよね。何回書いてても飽きないです。