魔法、魔術について合理的に考えてみるブログ

「魔法使いになりたい」、という欲望について真剣に考えてみました。

フォルセティ

光がない場所で、光を拝むことはできるであろうか。

輝くことのない場所で、輝くことはできるであろうか。

言葉がない場所で、言葉を発することはできるであろうか。

風がない場所で、風を起こすことはできるであろうか。

理神論の通底とは、そのようなものである。

 

フォルセティは山々を抜けて、岸に辿り着く。その岸の対岸には風が激しく吹き荒び、塵が光のように満ちている。こちら側の岸とは大違いだった。

フォルセティはその奥に、龍の姿を見て取る。何匹もいるように見えるが、その根元は一匹であるような龍だった。

フォルセティは、

「多でありながらに、一であるようなあなたは誰であろうか」と声を上げた。

龍がフォルセティに応えて言うには、

「わたしはナーガと言う。同時にあなたがフォルセティであるように」

フォルセティは今までに幾多の蛇に出会ったことがあった。しかし、ナーガのような龍に出会ったことはこれまでに一度もなかった。

フォルセティは剣を抜いた。

ナーガは巨大な牙をフォルセティに見せた。

ナーガは言う。

「蛇であるからと私を嫌うことがないように。私には大きな牙があるのだ」

フォルセティは剣を収めた。

ナーガは満足そうに深い深い海の底に牙を沈めた。

その時、フォルセティの耳に、悪魔の声が聞えた。

悪魔は言った。

「その龍は、お前の仇である。なぜかと言えば、その龍はお前の子供たちを殺すことになるから」

フォルセティは言う。

「悪魔の言葉と天使の言葉には大きな違いがある。悪魔のそれが、それ自体では現実にはならないのに対して、天使のそれがそれ自体で現実になるということだ。これらは神の恩寵によるものである」

その言葉に従うようにして、悪魔は姿を消した。

ナーガはフォルセティのその様子を見て、とても喜んだ。

ナーガはフォルセティに酒を振舞った。飛び切りの美酒であった。

フォルセティは今までに、ナーガの美酒のようなものを飲んだことはなかった。その美酒はどんな美酒よりも美味しいものであった。この地上の全ての海を集めても、この美酒の豊かな香りの密度には到底及ばないことが、明らかであるような、あるいはそのような啓示をフォルセティに与えるような、圧倒的な快楽の水であった。

フォルセティはナーガに礼を言う。

ナーガはフォルセティに礼を言う。

フォルセティは、なぜ礼を言うのかと尋ねた。

「あなたがわたしに仇為すはずであった悪魔を切り伏せてくれたから」とナーガは言った。

ナーガによると、悪魔は一であるものを多にしてしまい、多のままに荒地へと放置してしまうのだと言う。

「私の根本が一であるように」とナーガは言った。

フォルセティは問う。「ナーガはなぜ、塵にまみれているのか。なぜ光を嫌うのか」

ナーガが言うには、「あなたが裁きを剣とするように、私は塵を光とする」と。

 

フォルセティとナーガの問答。

 

フォルセティ:ナーガの予言は何か?

ナーガ:あらゆる戦であり、あらゆる分裂である。わたしがあたかも多であるように。

フォルセティ:ナーガは、分裂を望むのか?

ナーガ:わたしはあらゆる分裂を望む。わたしの根本が一であるように。

フォルセティ:ナーガの言う『戦』とは何か?

ナーガ:地上のあらゆる真の戦士による真の行為である。

フォルセティ:ナーガは神か?

ナーガ:神とは無限に異なる。しかし、そう呼ぶ者もいる。

フォルセティ:ナーガは偶像か?

ナーガ:罪ある場所に、罰ある場所に、わたしはいる。偶像であるとも、偶像でないとも言える。

フォルセティ:ナーガは聖なるものか?

ナーガ:穢れたものである。

フォルセティ:明らかに聖なるものでありながら、自身を穢れとして示すのはなぜか?

ナーガ:それが道理であるから。

 

フォルセティは剣を再び抜いた。

フォルセティが言うには、「ナーガは自身を穢れであると言う。しかし、ナーガは穢れてはいない。つまり、ナーガは嘘をついたことになる。これは確かに穢れである」

ナーガが応えて言うには、「あなたはとても賢い。英知によって、全てを裁く。だが、わたしはもう既に裁かれている。私が多であるかのように」

ナーガの姿は風と塵と光の中で、消え失せた。

フォルセティの耳にだけ、消えたナーガの声が聞える。

ナーガが言うには、「これから先に、わたしの子供たちとあなたの子供たちが出会うであろう。その時に、あなたはあなたが討つべきものを討つだろう。あなたの子供たちの幾人かはあなたの法力を為し、わたしの子供たちの幾人かはわたしの法力を為す。中でもあなたの心を実直に継ぐ者はあなたの神器を為し、中でも私の心を実直に継ぐ者はわたしの神器を為す。それぞれフォルセティ、ナーガと呼ばれ、わたしとあなたの名は後世にまで永遠に伝わるだろう」

 フォルセティはナーガの声を聴きながらに、嵐の中を進む。フォルセティが剣を揮うと、嵐は切り裂かれた。この時、フォルセティは風の要諦を知った。知恵はナーガからフォルセティへの贈り物だった。

 

 ロキはナーガがフォルセティに知恵を授けたことを快く思わなかった。そこで、フォルセティに悪魔を差し向けた。

 

 フォルセティはロキの悪魔を風の要諦によって退けた。風は目にはそれとは見えない力であった。だから、自分の知を超えるものを想定できない傲慢な悪魔はその力を捉えられずに、フォルセティの剣に敗北した。

 それを見ていたロキはフォルセティの前にあらわれると、剣を抜いた。

「フォルセティは剣を揮った。剣によって滅びるだろう」とロキは言った。

フォルセティが応えて言うには、

「剣を揮った罪は消えない。浄化されるとすれば、神業であろう」と。

ロキは「今や神はない。神は下等な者への過度な慈悲によって自らを滅ぼしてしまった。神の知恵とお前が錯覚しているそれを捨てるがいい。そうすれば、わたしがお前により優れた知恵を授けよう。二つのものを同時に求めることはできない。一つを求めよ」と。

フォルセティは言う。「神性は全ての存在に宿り、神話は厳正に開闢の時を示す。それらは一であるから」

ロキは「フォルセティは神の言葉を退け、悪魔に騙されている。地獄に落ちるだろう」と言った。

フォルセティが言うには「もしも、地獄を恐れて、それだけを信奉するのなら、地獄が訪れるだろう。神を畏れて、それだけを信奉するのなら、恵みが訪れるだろう」

ロキが言うには、「フォルセティは神という名の無を信仰している。無はまず存在がなくては存在しない。フォルセティは起源ではなく、偶像を信奉している。それは罪深い」

フォルセティが言うには「無は無い。全ては一であるから、多のようなものも一である」

ロキは憤怒して言う。「フォルセティは多神教を肯定している。これは罪深い。地獄に落ちるだろう」

フォルセティは言う。「悪人に対して慈悲がないのなら、悪魔であろう。その目に善性が開かれないのなら、見るものは全て悪性であろう。悪人を絶対的な悪人であるとするのなら、無を信奉していることになるだろう」

ロキはフォルセティを説得するのをあきらめた。

ロキはフォルセティとこの世界に次のような予言を残した。

「これから先に、わたしの子供たちとあなたの子供たちが出会うであろう。その時に、あなたはあなたが討つべきものを討つだろう。あなたの子供たちの幾人かはあなたの法力を為し、わたしの子供たちの幾人かはわたしの法力を為す。中でもあなたの心を実直に継ぐ者はあなたの神器を為し、中でも私の心を実直に継ぐ者はわたしの神器を為す。それぞれフォルセティ、ロキと呼ばれ、わたしの名は後世にまで永遠に伝わり、あなたの名はロキとあなた自身によってすぐに滅ぶだろう」

その時、ナーガはフォルセティにだけ聞えるように言った。「どんなに強い魔力でも、起源を誤魔化すことはできない。それは心あるものへの真理であるから。魔を憎めば、魔に落ちるだろう。魔を憎んでも、慮って施すのなら、天に昇るだろう。多であるようなものに恵むことで一と為し、一であるものに仕えることで多を為せ。多くを求めれば全てを失い、一つに満足するのなら、全てを得るだろう」

フォルセティはナーガの言葉を心から信じた。ロキの姿はいつとも知れずに消えていた。

フォルセティが辺りを見渡すと、空間に満ち、嵐に紛れていた無数の塵の一つ一つ、その全てが眩く輝く宝物となっていた。そこには一つとして無価値なものはなく、全てがそれぞれにそれぞれの固有のかけがえのない価値を称え、それぞれがそれぞれに分裂した、にもかかわらず、それぞれがそれぞれにただ一つであるような不思議な調和を享受していた。どのような苦役も強制されることなく、全てのものが全く自由であり、生の喜びに満ちている。悪はなく、全てが善きものであった。フォルセティは、何物も否定されることのない、無限に寛容で、優しい園に至る。フォルセティはその時、真の行為のどのようなものであるかを知る。

 

 

 

風が強い

君にもわかるはず

 

(YOHKO, 宮川弾, 「向かい風」の歌詞より引用) 

 

 

 

 

P.S.直観術は比喩です。