魔法、魔術について合理的に考えてみるブログ

「魔法使いになりたい」、という欲望について真剣に考えてみました。

グングニル

 サナハタの槍

 

 エグゼレイブの剣

 

 ピースマグナゴイの盾

 

 サナハタは槍を持った。その槍は祖父からもらったもので、先祖伝来の槍だった。

 エグゼレイブは弓の名手だったが、剣を扱うようになった。その剣も彼の/彼女の先祖伝来のものであった。エグゼレイブには性別はなく、ピースマグナゴイは女だった。

 

 ピースマグナゴイは、人々から疎まれた家系に生まれた。しかし、逆境を撥ねのけるその才能は群を抜いており、その事から王国の騎士団に任用された。

 

 サナハタの槍には、グングニル、という名前がついていた。

 

 不思議な事に、エグゼレイブの剣も、ピースマグナゴイの盾も、グングニル、という同じ名前がついていた。

 王国の巫覡が次のような預言を述べた。

 

 今ではそれぞれに異なっているが、かつては同じだった家系において、その龍の血筋において、戦士は集い、魔を払うだろう。

 

 その名を、龍殺しのグングニルとして。

 

 王族の魔術師は言った。

 

 龍の血族の者が、なぜ龍を殺すと言うのか?

 

 巫覡たちは言う。

 

 龍には二種ある。永遠の龍と、永遠を真似た龍と。

 

 王族の魔術師は言う。

 

 龍に種類があるとしても、龍は龍であろう。さらに、龍は非常に身内意識が強いと聞く。なぜ、その身内を、龍自身が殺す事があろうか。

 

 巫覡たちは言う。

 

 龍が三つであればどうか? ジンテーゼが可能である。そこに創生があるのだから。

 

 続けて言う。

 

 槍と、剣と、盾と。三つであればどうか? なんと尊い事よ。

 

 王族の魔術師は沈黙した。

 

 続いて、国王が声を上げた。

 

 次のようだった。

 

 巫覡よ。龍が三体もいるのでは、統率が取れまい。龍と言えば、あの悪の頭であろうに。なぜ、あなたたちは、そのような恐ろしい事を述べるのか。大悪が三体も揃っていると述べるのか。

 

 巫覡は言う。

 

 龍にも種類があります。善なる龍と、悪なる龍とです。善の龍は全き龍であり、悪の龍は部分の龍なのです。善き龍は部分を全体とすることもできるのです。それは聖人の治世において、決して棄民が生じないのと同じ道理なのです。悪しき龍は全体を部分と為し、それを固定するのです。それは悪鬼の暴虐において、全ての民が損なわれるのと同じ道理なのです。

 

 国王は沈黙した。

 

 続いて、天使は言った。

 

 龍が善き者であるというのなら、一つ試みてみるのが良い。

 

 天使たちは言った。

 

 それが良い。

 

 天使たちは合唱した。

 

 天使はサナハタの下に舞い降りて、彼に言った。

 

 「サナハタよ。黄金樹の麓に行け。そこにあなたの運命がある」

 

 サナハタは黄金樹の麓に行った。

 

 そこに至るまでに、多くの鬼に出会った。鬼は言う。

 

 「ここから先に行かせるわけにはいかない。押し通るのなら、生きては通れない」

 

 そこは死の国の入り口であった。

 

 鬼は棍棒でサナハタに襲いかかった。驚くべき怪力で、辺り一面の地が吹き飛んだ。足場を失ったサナハタは地の奥に吸い込まれた。

 

 サナハタは地底に落ちた。そこに、サナハタの心に深く刻印されていた槍が一本あった。グングニルであった。

 

 その槍を彼は手に取ると、飛翔した。その槍は重力を切り裂く事ができた。

 

 もはやサナハタを地に縛り付けるものがなくなった。

 

 第二の天使がサナハタの下に舞い降りた。

 

 「巨大な龍を倒すのが良い。それには性別がない。もしもそれができたなら、あなたの命が約束されるであろう」

 

 天使の導きに乗って、サナハタは旅をした。やがて、盾を持った少女に出会った。

 

 その少女は、出会うなり早々にサナハタにキスをした。サナハタもその少女と初めて会った気がしなかった。彼女の盾の名前も、サナハタの槍と同じ、グングニルだった。

 

 サナハタが眠から覚めると、少女は龍の姿になっていた。巨大な龍だった。彼女は災厄を振りまく獣なのだと、サナハタの耳元で天使が囁いた。

 

 天使の言葉に嘘はない。彼らは神の使いであるから。

 

 しかし、天使は同時に、こうも言っていた。

 

 「もしも、悪魔をも愛する力があったなら、その少女は救われるであろう」

 

 サナハタは自分に悪魔が愛せるかどうかについて考えてみた。悪魔の姿を造形し、イメージした。

 

 すると、悪魔が現れ、言った。

 

 「サナハタよ。その少女を殺すがいい。その少女は災厄を振りまく少女であるから。火種は早いうちに消しておくのが賢い」

 

 サナハタは迷った。少女を殺すことはできない。だが、悪魔を愛するのでなければ、少女を救うことはできない。悪魔を排除すれば、少女は罪に塗れ、また、悪魔を愛すれば、少女を殺す事になった。それは、重力の魔の呪であった。しかし、彼にはグングニルがあり、少女にもまた、グングニルがあった。それが天啓であった。

 

 サナハタは悪魔をグングニルで刺し通した。それは無敵の槍であった。同時に、盾の少女は、悪魔を守り通した。それは無敵の盾であった。悪魔は殺されたが、悪魔は守られた。悪魔は憎まれたが、悪魔は愛された。サナハタとピースマグナゴイが一つとなり、槍と盾が一体に、グングニルであった時に、奇跡は起きた。

 

 少女は救われ、サナハタの愛に報いた。悪魔は、その罪の刻印を逃れ、彼らを守護する龍となった。その龍に性別はなかった。そして、彼は、一本の剣を、二人に授けた。その剣は、グングニルであった。それは盾と槍から生まれた。

 

 サナハタとピースマグナゴイと、その龍、その龍の名はエグゼレイブと言った。

 

 エグゼレイブは永久にサナハタ達を守護した。

 

 こうして、罪に塗れた龍の一族は救済されることになった。泥の中の蓮華が尚も美しいように、如来の威光は罪の暗闇に勝る。

 

 だが、世には彼らの事を妬む者が多かった。妬みは、重力の呪でもある。

 

 あるいは、そうした世俗の人々も、グングニルにより救済される日も、やがては来るのかもしれない。