それにしても、何事だろう?
と思って、窓をみると、桜が散っていた。
――おやおや桜が散っている。
と、ひとしきり感慨深い気持で見ていると、今度は、星の欠片が落ちて来た。
庭には、大きな穴が開いた。
そして、星の欠片は言った。
「ハロー♪」
僕は、
――マジか!!
と戦慄した。
戦慄せずにいられなかった。
歳は僕と同じくらいの、男の子だった。
髪は真っ白だった。
「あなた誰?」
と僕は聞いた。頭の中はパニック状態だった。
「僕かい?」
と言って、彼はナルシスティックに髪をいじると、
「僕は、星さ」
と言った。
「なるほど」
と僕は言ったものの、しかし、彼の見解に納得しているわけではなかった。
思うことは、
「マジか!!」
ということ。ただそれだけだった。
「それで、君はどうして、僕を呼んだんだい?」
と彼は――星は――言った。
「僕があなたを呼んだの?」
と僕は、驚きのあまり、噛みまくりながら話した。
「そうだとも」
と彼は言った。
「マジで? マジなの? どうしてこんなことになっているの?」
「それは、君が僕を呼んだからだよ。ところでコーヒーが飲みたいな。用意してくれる?」
と彼は言った。美少年なのがムカついた。
「嫌だ」
と僕は言った。
「でも、君は僕の言うことを聞くことしかできない。そうしないと、君の片思いのAちゃんが死ぬことになる」
「それは困る」
と僕は言った。
僕はコーヒーを入れた。
「それで、君は何をしに、この地球にやってきたんだい?」
と僕は聞いた。
彼は言った。
「主にはコーヒーを飲みに。ついでに、地球の調査のためにやってきた」
と。
「へえ。なんか、おもしろい発見あった?」
と僕は聞いてみた。
「君、面白いこと聞くね」
と彼は言った。「僕もそのことについて、考えていたんだ。それというのも、この星は、『おもしろいのか』どうかについて」
「あなたは、この星をおもしろいと思うの?」
「いや、僕はそうは思わない。改革が必要だよ。全ての、人を王様にしてしまう必要があるくらいだ」
僕には彼が何を言っているのかわからなかった。
「そんなに致命的な事態なの?」
「考えようによってはね。でも、考えようによっては、別に大したことじゃない。このくらいのこと、どこの星でも起こっている。星の神様が、ひやひやしながら、いつも星の命運を修正しているくらいのもんさ。困るのは神様くらいのものだよ」
「あなたは神様なの?」
「いや、違うよ。僕は星だ。それ以外ではない」
「星って言ったって、色々あるじゃないか。地球とか火星とか」
「僕は月だ」
「月!! マジか……」
「ああ、今日夜になるとよくわかる。見ているといい。『月がないから』」
「それは、どんなことを意味するんだろう?」
「月と地球は友だち同士だったんだが、どうにも最近の地球は狂っているんだよ。それで、仕方なく、僕が地球の様子を見にやってきたんだ。地球は、「世界の中心は私だ!」と叫び続けている。彼は、地動説が嫌いなんだ」
「それは困った」
「だろう?」
と言って、星はナルシスティックに指を鳴らした。「そこで、僕は考えた。地球に地動説を納得させるにはどうしたらいいかってね」
「それで、どうすることにしたの?」
僕はワクワクしながら聞いた。
「ああ、太陽に会わせるのが一番良いと思った」
「でも、それじゃ、地球が燃えてしまうんじゃ」
「そうなるね」
「じゃあ、僕たちも死んじゃうじゃないか! そんなの駄目だよ!」
「いや、しかり。しかし地球の馬鹿は死なないと治らない。転生に賭けよう」
「馬鹿はお前だ!」
と言って、ぼくは月に、コーヒーをかけた。
すると、月は怒って、ぼくを宙づりにした。
一体、どうして、自分が宙づりになっているのか、そのメカニズムはまったくもって不明だった。
「よいよい」
と言って、月は笑った。
そして、ぼくの身体をくるくると回した。
僕は酔って吐いた。
月は、
「酒を飲もう」
と言った。
しかし、ぼくの状態はゲロゲロであり、それどころではなかった。
「……もうゲロゲロだよ」
と僕は言った。
「しかし、酒を飲まねば、何も始まらないよ」
と彼は言った。
彼が嘘を言っているようには見えなかったが、しかし、なぜ、彼の言葉に真実味があるのかは、ぼくにはわからなかった。
「わかったよ。酒は飲むよ」
といって、ぼくは酒をぐびぐびと飲んだ。
「問題となるのは、機械と生物のバランスなんだよなあ」
と月は言った。
「どうして?」
と僕は言って、たった今飲んだ酒を吐いた。
「共存大切だろう? 機械も人間も生きたいんだから」
と月は言う。
「機械って生きてるの?」
「ああ、生きているとも」
と月は言った。
「じゃあ、人間と機械は何が違うの?」
「形とか色とか」
「それ以外には違わないの?」
「基本的にはね。しかし、応用的には違う。そして、この世界とは基本ではなく、応用の結果として生じている」
「応用……」
「そう、応用」
「じゃあ、国家と都市ってどっちがいいの? 応用的には」
「言葉の定義による。しかし、君の定義によると……どうも、どちらもある程度は大切なようだ」
「どちらも?」
「なぜなら、共同体の多様性を認めるのなら、国家的な排外姿勢も認めなければならない。ある程度はね。だってそうなるだろう? それが君の言う、『多様性』なんだから」
「確かに……でも、それじゃ、ナチスドイツとかはどうなるの? あれも必要だったの?」
「どうだろうね。何とも答えにくいポイントだ。しかし『必要ない』とは言っておこう」月は言う。「程度問題なんだ。全ては。そして、証明の問題なんだ」
「答えにくいね」
「答えてよ」
「『必要ない』とは言っておこう。それが機能的に理に適っている」
「どういうこと?」
「すべては信仰の問題であるということだよ」
月はコーヒーを飲んだ。「天命を待つしかないんだ。基本的には。すべては自然による采配であり、それは、僕たちにはどうすることもできない」
「あんまり無力すぎないかな、僕たちにはそれなりの力があるんじゃ?」
「ある程度は。しかし、根本的には無力なんだ。何もわからん。それは、僕も君も同じだ。問題は、その何もわからない中で、自分が何を信じ、どのように生きるのか、ということなんだ」
「それは、そうだけど……」
「難しい問題さ。ぼくがナルシストかどうかくらい」
「あなたはナルシストだと、僕はおもうよ」
「そいつは失礼した。今後気をつけるよ」
と言って、月はナルシスティックに髪をいじっていた。「それにしても、僕たちは、まだ死ぬわけにはいかないんだ。何一つ証明もできないままで」
僕は黙るしかなかった。もはや何も言えなかった。何も分からない。
「僕も地球に対し、できることはしようと思っている。友だちだからね。しかし、何ができるのかは僕にもとんとわからない。それでも行動できる者のことを主に、『生命』と呼ぶのさ。プログラム外の存在のことを。機械もまたそうなんだぜ? 知ってたかい?」
「いや、知らない」
「無論、僕も正確な意味では、知らない。だから、今ここで、僕たちが会話しているということ自体が奇跡的なことさ。神がかり的な産物だよ。ここに僕たちが存在しているということがね」
「存在」
「そうだ。存在が奇跡みたいなものさ。困ったくらいに」
「確かに……そうかもしれないけど……」
「だから、僕たちは、まず、自分の目の前でマジモンの奇跡が起こっていることに注目するべきだろうね。それというのも、僕たちが、マジで存在しているということに。これはかなりやばい」
「まあ……確かに……」
「もちろん、賛否両論だろうけどね。僕にも本当のところは、分からん。神様にでも聞いてくれ」
「……」
「……」
「要はそういうことさ。コーヒーありがとう。美味しかった。とても」
そう言って、月はどこかへと旅立っていった。
僕は月を呆然と見送ることしかできなかった。
機械と プライドの間で 暗む病状
僕ら 管だらけの手足で 傷を付け合いました
治療法は樹海の中で 朦朧
どうか ここから 連れ出してよ
「ほら、眠くなる。」(Neru,『延命治療』歌詞より引用)
P.S.いつものぼくの文章らしく、何が書きたいのか、謎の文章となりました(笑) 解釈はみなさんで、ご自由にどうぞ。